ネムルトダー遺跡は、トルコ南東部の、広大な山々の頂にある世界遺産です。
標高2,150mの山頂にあるのは、明らかに周りの山とは異なる、人工的な円錐形の山。
これは約2,000年前、この地域を統治したコンマゲネ王国の王墓とされています。
しかし、王の棺はまだ見つかっていません。未だ多くのことが解明されていない遺跡なのです。
この記事では、ネムルトダーの歴史、行き方、謎を徹底解説していきます。
目次
ネムルトダーとは?
コンマゲネ王国時代の墳墓
高さ50mの円錐山は、紀元前1世紀頃コンマゲネ王国の王アンティオコス1世によって作られました。
王自身の墳墓として知られていますが、宗教儀式を行う場だった説もあります。
円錐山のふもとの東、西、北にはテラスがあります。
東西のテラスには、8~10mもの神像、王像、ライオンや鷲の像が並んでいます。
どの石像の頭部も、地面に落ちた状態。なんとも不思議な光景です。
ネムルトダー遺跡は2000年近く発見されずにいました。19世紀後半に発見され、その後調査が始まります。
今もなお、謎が多いネムルトダー遺跡は、世界七不思議に次ぐ遺跡とも言われています。
1987年には、ユネスコ世界文化遺産に登録されました。
ネムルトダーの場所
トルコ南東部のアドゥヤマン県に位置
ネムルトダーはトルコ南東部のアドゥヤマン県に位置します。
ダーとはトルコ語で「山」の意味。ネムルト山の頂に遺跡があります。
ネムルトダー遺跡からは、周辺の山々が見渡せ、遠くにはトルコ最大のアタテュルクダムも見えますよ。
夕日や朝日が美しいことで有名なスポットでもあります。
太陽がネムルトダー遺跡を照らす様子は特に神秘的です。
ネムルトダー遺跡の地図
コンマゲネ王国の歴史
ローマやペルシャの大国に囲まれた国
紀元前4世紀頃、トルコ南東部含むユーフラテス川周辺地域は、アレキサンダー大王が征服していました。
アレキサンダー帝国の崩壊後、トルコ南東部は、セレウコス朝の一部となります。
コンマゲネ王国は、紀元前162年にセレウコス朝から独立した国。
首都はユーフラテス川沿いのサモサタに置きました。
ローマやペルシャなど大国に挟まれた小国コンマゲネでしたが、周辺諸国とうまく関係を保ちながら、生き延びます。
しかし、紀元72年にローマの属州となり、コンマゲネ王国は滅びました。
ヘレニズム文化の影響を受ける
コンマゲネ王国はヘレニズム文化の影響を強く受けています。
ヘレニズム文化とは、ギリシャ文化を中心に、東西の文化が融合したもの。
ヘレニズム文化やペルシャ文化をうまく取り入れながら、隣国との関係を築いていました。
碑文はギリシャ語で書かれ、石像はギリシャとペルシャの神々が混在した形で作られています。
ネムルトダーの石像と石板
顔はギリシャ風、胴体はペルシャ風
東西のテラスにある石像は対照的に置かれています。
並んでいるのは、アンティオコス1世、神々(フォルトゥナ、ゼウス、アポロン、ヘラクレス)の石像。
その両端には、国の守護神であるライオン、神々の使者である鷲の像がいます。
顔はギリシャ風で、胴体や帽子はペルシャ風。東西の文化が融合しています。
東のテラスから朝日が、西のテラスからは夕日が石像を照らし、幻想的な景色が体験できますよ。
北のテラスには石像も石板もありません。東西のテラスをつなぐ儀式用の道があります。
星占いのレリーフに注目
出典:flickr photo by Carl Campbell
東のテラスには祭壇が、西のテラスには碑文や記念碑の石板があります。
石板で注目したいのは、アンティオコス1世と神々が握手しているレリーフと「王の星占い」のレリーフ。
「王の星占い」には、星や三日月、惑星が描かれています。
これは、世界最古のホロスコープ(占星術の天体配置図)を表しています。
アンティオコス1世が王位に就いた日付も刻まれました。
この日、水星・火星・木星が一直線上に並んだとされています。
ネムルトダーの謎とは?
石をどのように積み上げたのか
アンティオコス1世の墓と言われるネムルトダー遺跡ですが、墓自体はまだ見つかっていません。
円錐山の復元が不可能とされ、内部の調査ができないからです。
墳墓の直径は約150m。約3万立方メートルの小石を積み上げて作られています。
一部を掘ろうとしても、砂山のように小石のなだれが起きるため、発掘ができないのです。
当時の技術でどのように小石を積んだのかも、まだ解明されていません。
なぜ頭部が落ちているのか
東西のテラスにある石像は、胴体だけが当時のまま整列しています。
頭部は地面に落ちた状態で、中には鼻が損壊した像もあります。
理由の一つとして挙げられるのが、地震によって転げ落ちた説。
トルコは大地震が何度も発生している国です。
もう一つは、イスラム教徒のよる破壊説。イスラムでは偶像崇拝が禁止されています。
しかし、真相はわかっていません。
ネムルトダーへの行き方
現地発着ツアーを利用
ネムルトダーの起点となる町は、キャフタ、アドゥヤマンもしくはマラティアです。
ネムルトダーに一番近い町はキャフタです。
アドゥヤマン空港とマラティア空港があるので、遠方からは飛行機利用が便利。
ネムルトダーへの公共交通機関がないため、起点の町から現地発着ツアーに参加するのが一般的です。
日帰りツアーや1泊2日ツアーがありますよ。日の出や日の入りに合わせたツアーが人気です。
どちらも見たいなら、1泊2日ツアーに参加しましょう。
1泊2日の場合、ネムルトダー近くのホテルに泊まります。
キャフタの地図
アドゥヤマンの地図
マラティアの地図
ネムルトダーの観光シーズン
夏でも冬の服装で
ネムルトダーを観光できるのは、5~10月頃。冬は雪が降ることもあり、冬季は通行止めになります。
標高が高いため、夏でも朝晩山頂付近は冷え込みます。
実際、筆者も6月のネムルトダーツアーで、薄手のカーディガンしか持って行かず失敗。
あまりの寒さに、毛布を借りて観光した経験があります。
サンセット&サンライズツアーの時間帯は、冬の服装が必要。必ず準備していきましょう。
まとめ
神秘的な光景が見られる
ネムルトダー遺跡でしか見られない神秘的な光景が体験できます。
東西のテラスにある巨大な石像も圧巻で、ゾクゾクとくるものがあります。
たどり着くには険しい山道ですが、一見の価値がある世界遺産ですよ。
特に秘境好きな方にはぜひ見ていただきたい観光スポットです。